業務効率化と安全確保

小島 洋彦 氏
オリエンタルクリニック副院長
労働衛生コンサルタント

職場のストレスでうつ病が5倍、交通事故は1.5倍に
 業務の効率化は安全確保と結びつかないといけないのですが、昨今の経済事情、とくにリストラや競争激化によって、大手企業では自殺の問題が労働問題になるというケースもあるようです。 「東洋経済」という雑誌に「だれでもうつで悩んでいる------競争激化時代の心の処方箋」という特集が組まれていました。今日は「中年期」を中心として、「うつ病」の対策を、産業医としての職場での経験を交えてお話させていただきます。「職場のストレスがどのような影響を与えているか」。職場のストレスが大きくなると「うつ病」がだいたい5倍に、「交通事故」は1・5倍増えます。逆に対策をとれば、うつ病になる人が5分の1になるし、事故も5割減るだろうということです。「職場のストレスとは何か」。仕事の要求度が高い、自由度・裁量権が低いとストレスが高く−なる。その上に上司や同僚など職場の支援が得られないとストレスが高くなります。ストレスにうまく対応できないと、「うつ病」「不安症候群」など心の病気が出てきます。「職業における心理的負担評価表」というのがあります。軽いところでは「勤務形態に変化があった」「仕事のペース・活動に変化があった」「職場のOA化が進んだ」があります。「大きな病気やけがをした」「会社にとって重大なミスをした」は大きなストレスです。「職場での交通事故」も大きなストレスで、自家用車で起こした事故より、ストレスが強くなっています。 管理者が、ストレスの種類や程度を知っておくことは、非常に有効だと思います。

リストラによるストレス
日本では職場のメンタルヘルスはまだ盛んではありません。精神科へ行くというと、まだ抵抗があるからだと思います。日本は失業率が4〜6パーセント、自殺者は3万人を越し、交通事故死も1万人を越しています。「経営状態と従業員のメンタルヘルスに関係あるか」について社会経済生産性本部の今井氏が研究しています。「従業員の減少は職場の人間関係を悪化させ、会社職場への帰属意識の低下をもたらし、無気力な傾向が増え、被害者意識が強くなり、イライラして怒りっぽくなり、体の調子がよくないと感じ、仕事の手を抜くことが多くなった」ということです。今の日本ではリストラを一生懸命しています。しかし、従業員の仕事や職場への意欲を低下させないような方法をとらないと、「リストラはしたけれど、会社は生き残れなかった」ということもあります。経営サイドは、経営の安定性が従業員のメンタルヘルスにきわめて密接に関連していることを意識する必要があります。

心の風邪「うつ病」
 みなさんは「自律神経失調症」という言葉を知っているでしょう。「胃が痛い」とか「頭が痛い」という症状があっても、原因がわからないときにこの病名がつけられるのですが、日本特有の病気で、欧米にはありません。欧米では「不安神経症」「うつ病」「うつ状態」という診断をします。「心身症」は、人為的・社会的要因が密接に関係していて、「喘息」「胃や十二指腸潰瘍」など、機能的器質的障害が認められるものです。心理的不安を取ると、症状はよくなります。こういうことを念頭においてメンタルヘルスを考えるといいと思います。さて、「うつ病」の定義は、「ストレスが引き金になるが、脳内神経伝達物質セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンの分泌が減少し、気分が沈み落ち込んでいる状態」ということです。「うつ病」に特有なのは「悲壮感・悲哀感」が伴うことです。単に「だるい・ゆううつ」だけではないので、普通の「なまけ」とは違います。  最近「うつ病」が非常に増えています。とくに「軽症うつ病」が増えています。「心の風邪」ともいわれ、良い薬ができて、専門医でなくとも治せる病気になっています。ただし、実際には100%治るわけではなくて、薬の効果としては3分の2ぐらい、かなりよく治るということです。気をつけていただきたいのは「壮年期」には「更年期障害」を伴うことがあることです。男性にも「更年期障害」があり、それと重なると間違えることもあります。専門家の判断が大切になります。最近は「心療内科」というのもありますので、相談するといいでしょう。

仕事に尽くす人が「うつ病」に
どういう人が「うつ病」になりやすいか。几帳面、真目、凝り性、正直、それから強い正義感や義務責任感があり、他人に任せることができない。また、陰気で、融通がきかない、自分を抑える、煮え切らない人がうつ病になりやすい。医学的にいうと「執着性格がある」「メランコリー型」の人が要注意です。企業にとっては、仕事をしっかりやる人が「うつ病」にかかりやすいのです。症状はさまざまですが、その1つは出社拒否。一番恐いのは自殺です。壮年期のうつ病の特徴として覚えておいてほしいのは、「睡眠障害」「肩こり」「食欲不振」「性欲低下」です。私も軽い「うつ病」になって、2年以上悩んだことがあります。「全身倦怠」が続き、更年期障害かと思っていろいろ相談に行き、最後に精神科でテストを受けたら「軽いうつ病です」といわれました。薬を飲んだら2週間ぐらいで軽快しました。3分の1は再発するといわれていますが、再発しないのは、「更年期障害」や「うつ病」のことをある程度知っているからだと思います。知っていることは防止につながります。

うつ病を自己チェック
うつ病の程度は(重症か軽症かなど)はWHOの基準があります。気分が沈み、興味や喜びが低下する、疲れやすくだるいなどが2週間以上続けば、「軽いうつ病」です。自信喪失・自己評価が低くなる・自分を責める、さらに睡眠障害などが2週間以上続いたら、「うつ病」と思っていいでしょう。2週間以上が目安です。図1の「健康調査票」を使うと、「うつ病」のチェックができます。みなさんにお渡ししたパンフレットの裏にも自己テスト方法が書いてあります。が「自分はちょっとおかしいなと思ったら、医者に相談に行っているよ」といえば、部下は行きやすくなると「うつ病」にはいろいろなタイプがあります。「燃えつき症候群」、「昇進うつ病」、自分の先が見えてうつ状態になる「上昇停止症候群」、会社が休みで家にいると何をやっていいかわからず不安になる「週末うつ病」、中間管理職で上と下に挟まれ、自分がどうやっていいかわからなくなる「サンドイッチ症候群」、朝刊を読んでいる人が読まなくなる「朝刊シンドローム」は特徴的です。

うつのケア
 厚生労働省からメンタルヘルス対策の4つの柱が 従業員へのメンタルヘルスサービス出されています。労働者自身のセルフケア、管理監督者によるラインのケア、安全衛生委員会など事業内産業保健スタッフ(産業医など)のケア、産業保険推進センター等における医療所機関を利用するケアです。 「うつ病」にならないためにはどうしたらいいのでしよう。うまく気分転換する、ときにはずぼらになることが必要だと思います。「精神科に行こう」というのも難しい。心療内科の方が気分的には利用しやすいでしょう。管理者の人が「自分はちょっとおかしいなと思ったら、医者に相談に行っているよと言えば部下は行きやすくなります。いい薬が出ている、治りやすいということも知っておいていいと思います。上司が部下の「うつ」に気づくというラインのケアも大切です。出勤しない日が増えた、会議でよくしゃべる人がしゃべらなくなった、簡単なことを決断できない。ミスが多くなる、残業、遅刻が多くなるなどは、最初の「うつ病」の特徴です。管理者から部下を見る参考になります。

従業員へのメンタルヘルスサービス
 職場のストレス対策、うつ対策のために、「EAP」従業員援助プログラムという新しい考えが出てきています。主にアメリカの中堅、大企業が従業員に提供するメンタルヘルスサービスで、従業員の抱える精神的問題の予防、早期発見をして、的確に対応することで、労働力の損失、生産性の低下、企業の収益の悪化を防ぐ、軽減することを目的にしています。アメリカは自分のことは自分で、というふうに考えてきましたが、メンタルヘルスに関して、企業はかなり力を入れています。従業員が「うつ病」になると生産性が低下し、企業の収益が悪化するからです。しかも「うつ病」は頑張る人、能力のある人ほどなり易いからです。GMがEAPを導入した後、欠勤が4割減少、疾病と事故による給付額が6割減少、社員からの苦情が5割減少したという報告があります。日本では大手企業でも、自殺者対策にとどまっていますが、こういうこともきちんと安全衛生委員会の中で確立すると、企業の収益に結びつくのではないかと考えます。

心をリラックスさせる「自律神経訓練法」
「うつ」にならない、「ストレス」に対応する方法は何か。その1つを紹介したいと思います。ストレスを克服する「自律神経訓練法」というのがあります。予防にもいいと思います。副交感神経の緊張 を高め、心のリラックスした状態を自分で作る方法です。一番簡単な方法は、目をつぶって深呼吸をすることで、ある程度効果はあります。企業がサポートを求める方法としては、労災病院などでメンタルヘルスケアに対応してくれる所があります。こういう情報も大切だと思います。「医者に行って」と指導していただければ、それで対応はすむのですが、その前の軽い対応のときにこういうような対応策がありますよ、相談先がありますよということを知っておくことも大切と思います。安全衛生委員会のメンバーや、職場で管理をする立場の人にお勧めする本があります。「『心の悩み』の精神医学」(野村総一郎著)、「体にあらわれるこころの病気」(磯部潮著)です。厚生労働省から毎年出ている「衛生のしおり」と「安全のしおり」には交通事故対策やメンタルヘルスが入っていて、勉強になります。今日の話を参考にしていただければ嬉しいです。




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