事故多発者の教育

長塚 康弘氏  新潟大学人文学部  教授

対象:交通安全教育活動がある程度浸透し、今後の展開を模索しておられる企業

今日の私のキーワードは3つです。1つは「運転者への行動のへの注目」2つは止まる構え、しっかり止まって、はっきり確認」第3は「基本に忠実に」です。

小さな事故を軽視しない
事故防止で重要なことは事故を未然に防ぐことです。それには小さな事故を軽視しないことです。事故防止というとどこでも聞かれるのが重大事故や死亡事故です。これは正しいと思いますが十分ではありません。しかし、小さな事故は多少仕方ないという考えは危険思想だと思います。事故防止では事故そのものを抑えることがきわめて重要です。さらに対策を講じる上で重要なのは事故の原因となる運転者の問題行動に目を向けることと、とった対策の効果評価をきちんとすることです。

運転者の適性管理が大切
では、問題行動に迫るには運転者教育はどうあるべきか。第1番目には、適性管理の問題があります。本日のテーマである事故多発者の教育につながります。適性管理とは簡潔に言えば「運転に向いた心理状態の自己管理を援助する教育的業務」のことです。運転者自身が自分の行動や生活を律するのが基本ですが、実は大変難しい。そこで必要になってくるのが運行管理者や安全運転管理者の支援です。その中に教育的な側面が含まれますので、「教育的業務」としたわけです。適性管理でいうと、個人を対象にするものと考えられがちですが、組織・企業全体を対象にした管理も忘れてはなりません。まず、個人を対象とする適性管理についてみますと、事故多発者、あるいは事故を起こしていないがヒヤリ、ハッとしたことが多い人をなるべく早く発見して、事故に結びつかないように教育したり、問題が大きければ治療することが必要です。

事故多発者の行動傾向を知る
一口に事故多発者と言いましても、どういう人なのかが実は大事です。私の研究では単に事故の回数だけでなく、事故の重要度、責任度、運転技能・態度、路線危険度、健康状態を多角的にチェックして事故多発者の心理特性を明らかにしました。最近はこれに加えて、私は事故多発者の行動傾向を重視しています。 研究の結果では「思考的外向」非常に強い。独りよがりで返事はしても自分の考えを変えない人。「非強調的」である。キチンとやろうと言う構えがなくつめが甘い。休憩をとっても疲労が残る。という人です。 運転において具体的例としては、一時停止をしない、通行区分を守らない、安全確認の右の再確認をしない、駐車車両の側方を通過後進路変更時に合図をしない。

組織・企業の安全水位を上げる
第2は組織・企業の集団適性管理です。 先ほども述べたように、適性といえば個人の問題に限定されて使われていますが、私は運転者のみではなく、会社組織全体の安全への構えをレベルアップする、すなわち「安全水位」の維持と向上が必要だと考えています。船を浮かべる為には水が必要です。従業員を船にたとえれば、船を浮かばせるには、管理者の皆さんが船を引っ張り上げることではなくて、みんながいっしょになって水をまき、水位を上げる努力をすることが大事だと言うことです。最近、起こる重大な産業事故などを見ても組織ぐるみの安全軽視、安全無視があったのではないかと報じられています。事故多発者の特別診断をすると、会社の指導・管理に問題があるといわざるをえないような事例を私はいくつも経験しています。企業全体の安全水位を高める安全教育が大事になってくるわけです。

交通事故死者は減ったのに なぜ事故件数、負傷者数は増えているのか
では、組織・企業ぐるみの安全に取り組むために、何を教えるか。何よりも大事なのは事故の実態を社員全員に正しく伝えることです。特に運転を業務にしている会社であれば、会社全体の安全への構えが高くなっていかないと、最前線の運転手の士気も上がらないからです。 さて、日本の交通事故データをみると、死者数は減っているが、件数、負傷者数は上昇傾向に歯止めがかからない。ここが非常に問題です。 原因を見てみると死亡事故、負傷事故ともに原因で一番多いのは「前方不注意」。2番目3番目の原因は死亡事故では最高速度違反、酒酔い運転ですが、負傷事故では一時停止をしない、安全を確かめない、です。 別のデータで見ても同様に、最高速度違反、酒酔い運転はこの20年低い水準で変わらないものの、一時停止が原因は一貫して多い。さらに当初は20%以内であった安全不確認、脇見といった認知不全が上昇を続け、最近では60%をオーバーしているのです。わきみ運転の増加は携帯電話やカーナビの普及に関係していると思われますが、このわき見の上昇傾向を抑えることがこれからの課題になります。

よく見ることの教育が大切
こうしたデータは、すでに「よく見ることの教育の大切さ」を教えているのですが、研究者や実務家も運転における見ることの大切さを示しています。 アメリカのインディアナ大学のシナール教授、全日本指定自動車教習所協会の元事務局長の滝沢さん、大阪大学の長山教授、元F−1レーサーの中嶋悟さんも同様に見ることの大切さと重要性をお話されています。

行きづまったら基本に帰る
最後に対策に行きづまったら「基本に帰れ」ということを申し上げておきたいと思います。よく見るという運転の基本に帰れば何か答えは出せる。病気の原因を取り除くと病気が治るわけです。間違った治療をして、いくら注射をしても、薬を飲んでも病気は治せません。事故という病気を治す場合も、これと同じことが言えると思います。


参考資料:99トラフィック・セーフティ・フォーラム報告書より抜粋 この事例発表に関する詳しい資料をご希望の方は大変お手数ですが送付先を明記の上、資料請求をMailにてお申し込みください。



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